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原子力未来研究会について

原子力未来研究会は原子力問題に関心を持つ研究者、実務家で構成される小グループ。代表は山地憲治(東京大学)、仕事の関係で実名を明らかにしていないものが若干名含まれる。代表者以外に実名を明らかにしているのは、鈴木達治郎、谷口武俊、長野浩司(いずれも電力中央研究所)の3名。1997年12月からの月刊誌「原子力工業」(当時、現在「原子力eye」)での「21世紀の原子力」連載を機にグループを結成。本連載は「原子力eye」の1998年年間読者賞最優秀賞を受賞。本連載を基に1998年に「どうする日本の原子力―21世紀への提言」(日刊工業新聞社)を出版し、本書は翌年に第19回エネルギーフォーラム賞を受賞した。


「どうする日本の原子力―21世紀への提言」における提言の概要

  1. FBRは世界のエネルギーの将来に対する「選択肢の一つ」であり、我が国に理想の国産エネルギーを提供する「夢の原子炉」ではない。現在の実証炉計画は白紙に戻し、FBR開発は「技術継承」と革新性を重視した開発戦略に転換すべきである。
  2. 使用済み燃料貯蔵は燃料サイクルに柔軟性を与える重要な政策オプションであり、緊急時対応として受動的に位置づけるべきではない。貯蔵後のオプションとして、再処理だけでなく、使用済み燃料の直接処分の可能性を確保できるよう研究開発を開始すべきである。
  3. プルトニウム問題は核軍縮・不拡散を巡る国際情勢と密接に関係している。余剰プルトニウムの削減のため、再処理計画を所与とした「供給ありき」を前提とする従来の政策からプルトニウム需要にあわせて再処理を行う政策に転換すべきであり、六ヶ所再処理施設の計画は再考する必要がある。
  4. 放射性廃棄物は、原子力問題として特別視せず、健康・環境リスク問題として一般の有害廃棄物と整合的に扱うべきだ。廃炉廃棄物対策など時間的に優先度の高い課題に早急に対処する一方、高レベル廃棄物処分には十分な時間をかけて、幅広い選択肢の中から民主的なプロセスを重視して政策を絞り込むべきである。
  5. 規制緩和の潮流の中で原子力が生き残るためには、燃料サイクル・バックエンドの不確実性を切り離す必要がある。既存軽水炉の寿命延伸と標準化の徹底によって他電源に対する原子力の競争力を高めるとともに、民間の力を超えた経済リスクには国が一定の責任を持てるよう制度整備を行う必要がある。
  6. 原子力発電所の立地プロセスは制度疲労に陥っており、政治的思惑に翻弄されている。新規立地点の発掘に焦点を当て、地方分権・規制緩和の動きも踏まえて、地元市町村の役割強化の基本方向の下、地域支援寄付金制度の創設や地元自治体が自ら卸発電事業者となることなど、新たな立地体制を検討すべきである。
  7. 平和利用と軍事利用に境界線が引けるという前提の下、「我が国の原子力平和利用を守る」ことを目標としてきたこれまでの原子力外交は転換しなければならない。KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)プロジェクトの推進や使用済燃料対策の確立などの地域協力、核不拡散に貢献する技術開発などにより、核軍縮・核不拡散でリーダーシップを発揮することが求められている。
  8. 「地上の太陽」の実現というロマンだけで核融合の開発が許された時代は終わっている。核融合がエネルギーの未来を根本的に変革するためには、独自のエネルギー利用システムと組み合わせることが重要であり、大型装置の建設よりも基盤研究を充実させ、科学的研究として基本計画を再構築する必要がある。
  9. 新しい原子力政策の方向性は、総合エネルギー政策の下への統合、政策決定の透明性の確保、地球的視点からの長期ビジョンの提示に整理できる。この基本方向に向けて、原子力と国家と市民の新たな関係を構築しなければならない。


原子力未来研究会の著作リスト

連載 21世紀の原子力、FBRをどうするか;未来への「保険」として開発計画を再構築せよ、原子力工業, VOL.43, NO.12, pp.53-58 (1997)

連載 21世紀の原子力[2]使用済み燃料をどうするか;「貯蔵」を戦略的に位置付けよ、原子力eye,Vol.44, No.1, pp.72-75 (1997)

連載 21世紀の原子力[3]プルトニウムをどうするか;再処理政策を見直し, 余剰削減に徹せよ、原子力eye, Vol.44, No.2, pp.71-75 (1998)

連載 21世紀の原子力[4]放射性廃棄物をどうするか;リスクに基づいた計画評価を、原子力eye, Vol.44, NO.3, pp.73-77(1998)

連載 21世紀の原子力[5]規制緩和をどう考えるか;不確実性を減らし、競争力を高めよ、原子力eye, Vol.44, No.4, pp.76-79 (1998)

連載 21世紀の原子力[6]原子力政策をどうするか 政策決定プロセスを再構築せよ、原子力eye,Vol.44, No.5, pp.34-39 (1998)

連載 21世紀の原子力[番外編]原子力発電所立地をどうするか 地元との新たな関係を築け、原子力eye,Vol.44, No.7, pp.42-47(1998)

連載 21世紀の原子力[再び番外編]原子力外交をどうするか 核軍縮・核不拡散でリーダーシップを発揮せよ、原子力eye, Vol.44, No.9, pp.61-66 (1998)

「どうする日本の原子力―21世紀への提言」(山地憲治編、原子力未来研究会著)、日刊工業新聞社 (1998)

東海村臨界事故をどう考えるか 安全確保体制の抜本的見直しで原子力全体への信頼回復を図れ、原子力eye,Vol.45, No.12, pp.11-15 (1999)

核燃料サイクルの本格化に向けて?オプションの確保に努めよ?、原子力eye, Vol.47, No.3, pp.33-38 (2001)

自由化時代の原子力と核燃料サイクル 六ヶ所問題を本音で議論し、早期決断を、原子力eye,Vol.48, No.7, pp.20-25 (2002)

連載 どうする日本の原子力−混迷から再生へ−[No.1]時代遅れの国策の下では原子力に未来はない、原子力eye, Vol.49, No.9 (2003年9月号) pp.49-55


月刊誌「原子力eye」の連載「どうする日本の原子力―混迷から再生へ―」の連載中止に関する資料

どうする日本の原子力−混迷から再生へ−[No.1]時代遅れの国策の下では原子力に未来はない、原子力eye, Vol.49, No.9 (2003年9月号) pp.49-55

原子力eye, Vol.49, No.10 (2003年10月号) 掲載中止*:どうする日本の原子力−混迷から再生へ−[No.2]六ヶ所再処理プロジェクト決断への選択肢―出口なき前進か、再生への撤退か−、
*本稿は8月11日に編集部にメールで送付したが、15日になって原子力eye誌の編集主幹より口頭で連載を中止したいとの連絡があった。この際、連載中断にあたって原子力未来研究会から短文のメッセージを用意するので掲載して欲しい旨申し入れ受諾された。

原子力eye, Vol.49, No.10 (2003年10月号) 掲載中止**、連載「どうする日本の原子力―混迷から再生へ―」の中断について
**本稿は8月18日にメールで送付し受理されたが、21日になって日刊工業出版プロダクション社長名の手紙により掲載できないとの通知を受けた。


リンク

東京大学 山地・藤井研究室