エリア別時刻別平均電力CO2排出原単位
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1.はじめに
長期的にカーボンニュートラルを目指すためには、適切な指標を用いて需要家に帰属するCO2排出量を算定していく必要があり、現在、GHG Protocol Scope 2 ガイダンスにおいても、「電力消費のタイミングにより近いタイミング、かつ電力消費がなされる地域によりふさわしい排出係数の利用を必須とする」といった改定案が提出されている1)。時刻別エリア別のCO2排出原単位による排出量算定は、需要側のデマンドレスポンスや蓄電池活用のCO2削減価値を示すために重要であり、かつ、発電・需要双方の調整のためのシグナルとして活用できれば、再エネを含む安定的な需給運用にも貢献できる。
米国では、時刻別電力CO2排出原単位に関して、リアルタイムに近い算定を行い、公開あるいはAPI 経由で企業に提供している事例も存在している2,3)。
日本においても、同様の活動が開始されており4,5)、今後標準的な算定方法について検討し、具体的な仕組みを構築していくことが望まれる。日本の先行研究事例では、時刻別の火力発電所発電量を、全体の発電量で除すことによって平均の時刻別CO2発電量が算定されている6,7)。ただし、わが国では、貯蔵要素である揚水発電所の導入比率が比較的高く、いつなにを原資として電力が貯蔵されているかを考慮する必要があるが、そのような検討はされていない。また、一般送配電事業者間では、連系線を介した潮流も多く発生しているが、その影響も考慮したCO2排出原単位は算定されていない。
2024年の1月以降送配電事業者からエリア内の火力発電内訳が公表されるようになったこともあり、本研究では、揚水発電所や蓄電池等の貯蔵原資を考慮し、さらに、連系線潮流を考慮したCO2排出原単位を算定するロジックを提案し、その計算結果をここに公開する。
2.時刻別CO2排出原単位の考え方:平均と限界CO2排出原単位
電力システムにおいては、変動する需要に対し、発電機の稼働状況は刻々と変化する。基本的に、需要(総発電量)における火力発電の比率が電力のCO2排出原単位となり、需要に乗じることでCO2排出量が算定される。CO2排出原単位は、平均と限界の考え方がある。平均のCO2排出原単位(AEF、Average Emission Factor)とは対象期間・空間の需要あるいは総発電量当たりのCO2排出量であり、限界の原単位(MEF、Marginal Emission Factor)とは、需要(あるいは総発電量)が一単位増加した場合に増加するCO2排出量である。需要や発電の追加的な変動(介入)に対するCO2排出量の変化を見るためには、本来限界原単位で議論する必要がある。しかし厳密に限界係数を算定するためには、時々刻々の稼働電源の特定が必要であり、容易ではない。他方、平均的なCO2排出原単位は、需要の構造的な変化が進んだあとでは、その時点のCO2排出量を算定することには利用可能であり、空間的・時間的な解像度を高めることで、再エネの発電量が多い時間帯やエリアの平均のCO2排出原単位が小さくなるため、そのような時間に需要を誘導あるいは、発電を回避するインセンティブとなりうる。本研究では、平均の送配電事業者別の時刻別AEFを算定する。
3.時刻別AEFの算定方法
(1)連系線潮流を考慮しない場合のAEF算定手法8)
まず、各一般送配電事業者のエリア需給実績データ9)を用いて、以下の算定式で揚水発電の貯蔵原資を考慮した時刻別AEFを算定した。
・火力発電所からのCO2排出量は、各時間のLNG、石炭、石油、その他別に、基準CO2排出原単位を乗じて算定される。この値を、火力総発電量で除すことにより火力平均CO2排出量原単位を算定。
・揚水動力が再エネ発電量を上回る分を火力発電による揚水動力分とみなし、各時間の火力平均CO2排出原単位を乗じて積算、この日の揚水動力用CO2排出量を算定する。これを火力発電による揚水動力日量で除して、この日の揚水動力用平均CO2排出原単位を算定する。揚水発電が発生する時間帯に、その日の揚水発電合計量に対する比率に基づいて、揚水動力用のCO2排出量を配分する。
・最終的に火力発電所からのCO2排出量から揚水動力用CO2排出量を除き、揚水発電用CO2排出量を加え、揚水以外の発電量で除すことにより、AEFが算定される。
時刻別AEF [kg/kWh] =((火力発電量[kWh]-揚水動力用火力発電量[kWh] )×時刻別火力平均CO2排出原単位[kg/kWh] +揚水発電用火力発電量[kWh] ×揚水動力用平均CO2排出原単位[kg/kWh])/(揚水以外の発電量合計[kWh] )
具体的な定式化は以下のとおりである。
図1:揚水貯蔵原資の考慮
ここで算定される平均CO2排出原単位においては連系線潮流は考量されておらず、自エリア内の発電電力量に対する原単位となる。他社から流入がある場合には、流入分を除いた需要に対する原単位となり、他社へ融通している場合は、その分の需要も含めた原単位となる。
一般送配電事業者のエリア需給実績データは2016年度以降整備されており、2024年の1月以降(2.3月以降の場合もある)、それまでは各社間でバラバラだったフォーマットが統一された。フォーマット統一後の新データセットにおいては、30分単位の燃料種別火力発電所の発電実績に加えて、蓄電池の充放電データも存在する。蓄電池の充電を揚水動力と、放電を揚水発電と同様に取り扱った。
今回用いた火力発電所の基準CO2排出原単位は表1のとおりである。火力その他はLNG火力の基礎CO2排出原単位と同じと想定した。
表1 火力発電燃料種別基準CO2排出原単位10)
| 発電所種類 | 基礎CO2排出原単位(㎏/kWh) |
|---|---|
| LNG火力 | 0.415 |
| 石炭火力 | 0.864 |
| 石油火力 | 0.721 |
先行研究における、揚水発電所(蓄電池)の原資を考慮しない場合の時刻別のAEFは以下の式で算定される6)。
時刻別AEF = (火力発電量×時刻別火力平均CO2排出原単位)/(発電量合計(揚水含む))
分母は揚水発電も含めた合計発電量となり、揚水動力は需要として差し引かれる。揚水の動力原資が太陽光や風力発電のみ、夜は原子力と想定できれば、その影響は考慮しなくてもよくなる。日量の揚水動力分の揚水発電への割り付けの必要がないため、リアルタイムで、AEFを提供することができる。この手法で算定すると、揚水発電所の多い地域では、深夜帯のAEFが大きくなり、揚水発電している夕方等の時間帯のAEFが小さくなる。需要に帰属するCO2排出量を算定するだけでは、大きな影響はないが、AEFをシグナルとして発電設備の運用やデマンドレスポンスを設計する場合、望ましい運用を実現できない可能性がある。
(2)連系線潮流を考慮した場合のAEF算定手法
需要の変化に対するCO2排出量を正しく算定するためには、エリア内の発電所から排出される電源だけを考慮するだけでは不十分で、エリア外からの流入流出も考慮する必要がある。例えば、東京電力管内の場合連系線潮流として主として東北電力からの流入、一部中部電力からの流入(一部は中部電力へ流出)が発生するが、その潮流分のCO2排出原単位は考慮されていない。東京電力管内の需要に対するAEFを算定する場合、各エリアとの連系線潮流電力のCO2排出原単位を連系線潮流に乗じ、東京電力管内の発電からなるCO2排出量に加算し、流入含む全需要で除す必要がある。
そこで、以下のように連系線潮流を考慮するAEFを、以下のような手順で算定するものとした。
- 連系線潮流は、実際は、間接オークションでメリットオーダーで取引されるが、その電源を特定する情報がないので、連系線潮流の出し手側のエリアの発電におけるAEFをその連系線潮流のAEFと想定する。
- 電力広域的運営推進機関の5分ごとの各連系線における潮流データ11)を、30分毎に積算する。
表2 連系線リスト
| 北海道・本州間電力連系設備 |
| 相馬双葉幹線 |
| 周波数変換設備 |
| 北陸フェンス |
| 越前嶺南線 |
| 南福光連系設備 |
| 三重東近江線 |
| 西播東岡山線・山崎智頭線 |
| 本四連系線 |
| 阿南紀北直流幹線 |
| 関門連系線 |
- 一般送配電事業者の需給データより得られる連系線潮流量を、上記の各連系線における潮流量を用いて、連系線別に按分し、連系線潮流の出し手側の各エリアのAEFの加重平均で連系線AEFを算定する。
- 最終的に連系線潮流(流入)を考慮したAEFは以下のように算定される。
連系線潮流(流入)を考慮したAEF = {(需要 − 連系線流入量)× 自地域発電によるAEF + 連系線流入量 × 連系線AEF } / 需要(連系線流入 > 0 のとき)。連系線流入 ≦ 0 のときは「自地域発電によるAEF」。
図2 連系線を考慮したAEFイメージ
参考文献
- 1)みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社; GHGプロトコルの改訂に係る論点の概要(2024年10月7日)https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/LCA_CFP/ghgprotocolshiryou.pdf
- 2)WattTime; https://watttime.org/
- 3)Singularity Energy, Inc. ; https://singularity.energy/
- 4)パシフィックパワー株式会社;時間帯別CO2排出係数グラフ; https://pacific-power.co.jp/cdef-kaisetu/
- 5)株式会社電力シェアリング; 送電網毎の時間帯別CO2排出係数の算出; https://www.d-sharing.jp/blog/co2?categoryId=400359
- 6)松田 健士、堀尾 作人、合津 美智子;電力リアルタイムCO2排出係数の試算と応用例、第42回エネルギー・資源学会 研究発表会(2023)
- 7)大橋巧、森本万葉、西田壮一朗; 時刻別CO2排出係数を用いた非住宅建築物の評価、日本建築学会技術報告集30 ( 74 ) 234 – 238(2024)
- 8)岩船他、貯蔵原資を考慮したエリア別時刻別電力CO2排出原単位の推計、第41回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス(2025)
-
9)送配電事業者のエリア需給実績
北海道電力ネットワーク
https://www.hepco.co.jp/network/con_service/public_document/supply_demand_results/index.html
東北電力ネットワーク https://setsuden.nw.tohoku-epco.co.jp/download.html
東京電力パワーグリッド https://www.tepco.co.jp/forecast/html/area_data-j.html
中部電力パワーグリッド https://powergrid.chuden.co.jp/denkiyoho/
北陸電力送配電 https://www.rikuden.co.jp/nw_jyukyudata/area_jisseki.html
関西電力送配電 https://www.kansai-td.co.jp/denkiyoho/
中国電力ネットワーク https://www.energia.co.jp/nw/service/retailer/data/area/index.html
四国電力送配電 https://www.yonden.co.jp/nw/supply_demand/index.html
九州電力送配電 https://www.kyuden.co.jp/td/service/wheeling/disclosure.html
沖縄電力 https://www.okiden.co.jp/business-support/service/supply-and-demand/index.html - 10)環境省;電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(2020年7月14日); https://www.env.go.jp/press/files/jp/114277.pdf
- 11) 電力広域的運営推進機関 系統情報サービス: https://www.occto.or.jp/keitoujouhou/
(参考文献Webサイトのアクセス日はすべて2024.11.19)
公開内容
24年4月以降の時刻別CO2排出原単位(CSV)。自エリア内の発電のみを考慮した平均のCO2原単位がB列Area_AEF、連系線潮流も含めたCO2原単位がD列Total_AEF。通常はTotal_AEFを利用。連系線AEF(Transaction_AEF)はC列。G列には平日/休日フラグ(休日は土日祝日年末(12/29-1/3))。
送配電エリア
1:北海道、2:東北、3:東京、4:中部、5:北陸、6:関西、7:中国、8:四国、9:九州、10:沖縄
注: 本ページの時刻別データは までを収録しています。
AEF_with_interconnect_1.csv(北海道)AEF_with_interconnect_2.csv(東北)
AEF_with_interconnect_3.csv(東京)
AEF_with_interconnect_4.csv(中部)
AEF_with_interconnect_5.csv(北陸)
AEF_with_interconnect_6.csv(関西)
AEF_with_interconnect_7.csv(中国)
AEF_with_interconnect_8.csv(四国)
AEF_with_interconnect_9.csv(九州)
AEF_with_interconnect_10.csv(沖縄)
AEF_with_interconnect_all.zip(上記データ一式:ZIP)
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