研究実績 NEWS

2017/3/17

家庭用エネルギーマネジメントシステムデータによる
エネルギー診断の効果検証を行いました

〜HEMSデータによるエネルギー診断の自動化、フィードバック効果〜
発表のポイント
◆ 家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)データを用いて、エネルギー診断を自動的に行うシステムを開発し、効果を検証した。
◆ HEMSを用いて家庭用エネルギー診断を実施し、多数のフィールド(1600世帯)について効果を検証した事例としては初。
◆ 今後の家庭部門の省エネルギー促進に大きく貢献する。
発表概要
 低炭素社会実現に向けて、家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)注1 の普及が期待されています。住宅メーカ等ではその導入が進んでいますが、すでに導入済みのHEMSのデータ活用が十分といえない状況にあります。また、今後その役割が拡大すると想定されているデマンドレスポンス(DR)注2 の家庭への導入を考える際、消費者の行動や行動変容について把握しておくことは重要となりますが、この点についても検討が不十分な状況です。
 東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センターの岩船由美子特任教授らは、家庭用エネルギーマネジメントシステムデータを用いて、エネルギー診断を自動的に行うシステムを開発し、HEMS設置世帯約1600世帯を対象に診断の効果を検証し、冬季において3.4%の消費電力量の削減効果があることを確認しました。
発表内容【研究の内容】
 岩船らは、家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)データと家庭属性データ(人数、面積、住宅種類等)、気象データや家電スペックデータを統合的に管理するHEMSデータベースを構築し、そのデータに基づいて、データエラーチェック、欠損処理を行った上で、診断ロジックを作成するシステムを開発しました。このシステムを用いることで、世帯ごとのテーラーメイド型のエネルギー診断内容(A4用紙2枚分の分量)が作成されます(図1)。 診断内容は季節に応じて変わり、世帯属性情報から抽出した類似世帯との比較、月別、時間別の回路別の電力使用状況、主空調の使用時間と電力消費の関係、過去データとの比較、他者の成功例、その他各世帯の特徴に応じたアドバイス等が掲載されます。
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 image診断書の送付を、2015年冬、2015年夏、2016年冬の三回にわたって行い、診断書送付世帯(実験群)と未送付世帯(統制群)における省エネ効果を、パネルデータ回帰ランダム効果モデルを利用して検証しました。比較の際には、統制変数として、床面積、人数、外気温、主空調種類(全館・ガス灯油・電気床暖)を選択し、診断の効果のみを抽出できるようにしています。また比較対象となる月は、診断書を送付する前月あるいは前年同月です(表1)。

 世帯全体では、夏季の診断では診断書送付の効果が出ませんでした(図2)。 ただし、類似世帯より多いと診断された世帯では、送付前の月に比べて送付後の月のほうが全体で2%削減し、空調、給湯で7%程度削減していることが確認されました。類似世帯より少ない、と診断された世帯では、対前月比で10%電力消費量が増加しており、少ないと診断されたことによって安心して消費量が増えてしまった、いわゆるブーメラン効果が表れたのではないかと考えられます。
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 冬季の診断(2016年)は対前年比3.4%の消費電力量の削減効果が確認されました(図3)。 具体的には、空調が10.1%減少し、給湯が2.3%減少しました。冬季に関しても類似世帯より多い、と診断された世帯のほうが削減効果が大きく、全体で5.4%(対前年比)となりました。これは56kWh/月に相当する量であり、全世帯平均削減効果の22kWh /月に比べて大きな削減効果といえます。つまり、多消費世帯への診断が特に効果が高いことが分かります。
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 また、2年間に渡って診断を実施した世帯では、冬季において7.5%の累積の削減効果が確認されました(図4)。継続的な診断が効果的であることが分かりました。

発表内容【今後の展開】
 HEMSデータを利用したエネルギー診断は、特に冬季、類似世帯よりも比較的消費量の大きい世帯において、一定の効果を有していることが確認できました。また、継続的な診断も効果的なことも明らかになりました。
 現状、HEMSへの注目度は、以前より下がっています。しかし、今後安定的な電力需給のためには、家庭においてもデマンドレスポンスは必須であるため、エネルギーマネジメントの機能を住宅に実装していくことは必要になると予想されます。そのようなエネルギーマネジメントシステムから副次的に取得される住宅のエネルギー消費量の情報を活用して、住民へフィードバックをしていくことは重要であると考えられます。
 今後は、診断に対する消費者の反応について引き続き検証するとともに、郵送に頼らず、Web等を活用したより安価なエネルギー診断手法の開発やその効果について検討していく予定です。

 本研究は、積水化学工業株式会社、株式会社ファミリーネットジャパン、トヨタホーム株式会社の協力を得て実施され、本成果は、環境省およびJST/CRESTの支援を受けました。
発表雑誌
雑誌名 :Energy, Volume 125, 15 April 2017, Pages 382-392
論文タイトル:Energy-saving effect of automatic home energy report utilizing home energy management system data in Japan
著者  :Yumiko Iwafune*, Yuko Mori, Toshiaki Kawai, Yoshie Yagita,
DOI番号 :http://dx.doi.org/10.1016/j.energy.2017.02.136
用語解説
注1)家庭用エネルギー管理システム(HEMS)
 家庭用のエネルギー管理を行うためのシステムであるが、本研究においては、分電盤に設置された計測器からの情報を収集し、主要な分岐回路別の電力消費量を計測することができるシステムを指す。家の中の電力消費量を見える化し、省エネルギー促進に寄与する。
注2)デマンドレスポンス(DR)
 卸市場価格の高騰時または系統信頼性の低下時において、電気料金価格の設定またはインセンティブの支払に応じて、需要家側が電力の使用を抑制するよう電力消費パターンを変化させること。