これって節電? みんなの質問

このコーナーでは様々な場面で寄せられた質問に対する岩船の見解を述べていきます。

エアコンの室外機斜め置きで節電20%って本当?

Q. NHKの番組で、エアコンの室外機を少し斜めにすることで、風通しが良くなり、室外機付近の温度が下がって節電になると聞きました。一方で、素人がエアコン室外機を動かすのはよくないとも聞きます。どちらが本当でしょうか?

エアコン消費電力を抑えるための室外機の環境改善のポイントは、周辺温度を上げないようにすることです。

  • 周りに物を置かない
  • 日ざしを防ぐ
  • 雑草を抜く
  • 打ち水をする(室外機の隙間から水が入らないよう注意しましょう)

なども、有効な対策となります。また、室外機を設置する際には、その裏側に十分な空気の通り道を確保するため、壁から10cm以上離して置くことが推奨されています[1]

ご質問の方法は、都市部などで十分なスペースのないご家庭で、室外機が家の壁にぴったりくっついて設置されているような場合に、室外機の裏に十分な空気の通り道を確保するためのスゴ技として、番組に出演されていた北原さんが考案されたものです。具体的には、室外機の配管が接合していない方を15度開くようにするのですが、この際に、接続部を傷つけないよう、できるだけ接続部を動かさないよう注意する必要があります(接続部のある方を軸として15度回転させるのもそのためです)。

番組の実験では、これによって20%の節電に成功していますが、これは対策を施す前の室外機の条件次第なので、もともと壁との間に十分な空間がある場合などは、さらに間隔を広げるよう動かす必要はないでしょう。

[1] 都会のベランダなどで多くみられる、背面と片側面が壁に接する状況での某メーカーの標準的基準。メーカーによってこの値は異なります。

自販機とパチンコの両業界で年間1000万キロワット近い電力が浪費されている」って本当?

Q. 最近当選した某都知事が、盛んにパチンコと自販機を叩いています。当選後の記者会見で「自販機とパチンコの両業界で年間の電力消費がそれぞれ450万キロワットで、合わせて1000万キロワット近い電力が浪費されている」と強調していました。これは本当ですか?

これはどうやら読売新聞の下記の記事に基づいているようです。

【読売掲載の表】
主な産業、製造業、生活   1日あたりの電力消費量   一般家庭換算の世帯数   
自動車・電機など 4617万kWh 476万世帯
化学 2470万kWh 225万世帯
鉄鋼 1753万kWh 181万世帯
鉄道 1726万kWh 178万世帯
食品 1530万kWh 158万世帯
パチンコ 415万kWh 43万世帯
飲料自販機 400万kWh 41万世帯
東京ディズニーリゾート 57万kWh 5.9万世帯
東京ドーム プロ野球1試合 4万kWh 0.41万世帯

某知事はkW(電力)とkWh(電力量)とを間違えてしまったようです。ただしくはパチンコ店と自販機で815万kWh/日であり、815万kWではありません。これに対して下記のような反応がありました。

日本遊技関連事業協会(中央区)によると、パチンコ店で最も電力消費が大きいのは空調で、東京電力管内の約4000店舗の真夏の消費電力は、 ピーク時で も約84万kWと推計され、「おそらく夏場の全電力供給の1・5%程度」と話す。(2011年4月12日10時19分 読売新聞)」ということです。桁は違いましたが、まあこれでも結構大きいです。照明・空調を減らすなどにより削減余地も大きそうです。

自販機は東電管内に約85万台あるそうですが(同じ記事より)、仮に24時間一定通電として、平均で17万kW程度でしょうか。と思ったら夏は13時から16時まで平年OFFにしていたとのこと(日本自動販売機工業会「夏場の電力需要不足への対策 夏場の電力不足予想時には 缶・PET飲料自販機は冷却運転を停止しています」)。この時間一台17Wのみ消費ということで、1.5万kWしか使っていなかった計算になります。知りませんでした。工 夫していたのですね。さらに(社)全国清涼飲料工業会は、今年は対策を強化し、夏期の10時から21時の間の25%の電力カットを実施する方針を 発表しました(4月15日)。ちなみに消灯時の冷却運転時は299W、ということなので、テレビ3台分に相当します。

そこまでたたかれる必要もなかった気もしますが、確かに自販機はちょっと多すぎますかね。

kWとkWhの違いに気をつけましょう。これを間違えると対策の効果を見誤りますし、節電か省エネかの重要なポイントでもあります。

契約アンペア課金はピークカットに貢献するか?

Q. 各世帯ごとの電灯契約アンペア数を下げることで、電力使用のピークを抑制できるでしょうか。ブレーカーを落としたくないために、特にピーク時の節電をより意識的に行うようになると考えられます。(Iさんよりいただいた節電アイディア)

家庭の契約は一度に使える電流で基本料金が決まります。昔は30アンペアが多かったですが、最近は家電の多様化、大型化によって40-60アンペアの世帯が主流になってきました。この契約電流の基本料金をアンペアが大きくなるにつれて今よりもっと値上げして、契約アンペアを下げるよう誘導すれば、ピークカットはできるのではないか、という意見があります。これは本当でしょうか。

基本的にはNoです。図は当研究室で現在も計測が続いている46世帯の昨年2010年8月の家全体の1分計測データより、20アンペア以上の消費が発生する時間、30アンペア以上の消費が発生する時間を示しています。横軸のかっこ内は契約アンペアです。ほとんどが40アンペア以上の契約ですね。見ていただくとわかるように、20アンペア以上の消費が発生している時間が一日当たり30分を越える世帯は5世帯ほどありますが、30アンペアを越える消費が一日10分超えることはありませんし、ほとんどの世帯で0です。ですから30アンペアで上限を設けても、ほとんどの世帯はほとんどの時間帯30アンペアより小さい消費量なので、ピークカットの効果はほぼない、といえるのです。30アンペアを越えるというのは、エアコンの立ち上がりと電子レンジの使用と炊飯器の炊飯とオーブントースターの使用が同時に発生したような感じでしょうか。そんな状況がずっと続いているわけではありません。エアコンも消費電力が特に大きいのは立ち上がりだけですから、しばらくすると大きく下がった値で落ち着きます。

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図 世帯の電力消費実態(2010年8月実測)
データ:岩船研究室

なお、この実測データは、集合住宅が主たる対象ですので、関東を代表する世帯であるといいきることはできませんが、平均90m2程度の住宅にお住まいの1-4人世帯が対象です。

もちろん大人数で複数の部屋でガンガンエアコンをつけているようなお宅には効果があるかもしれませんが、そういう世帯はあまり多くないでしょう。それから、Iさんがおっしゃるように、契約電流を下げることによって機器の使い方を意識するようになり、節電する意識が高まるのではないか、という期待もありますので、絶対効果なし、というつもりはありません。ただ、実際のピーク(ひげ)というのはほとんどの世帯でほんの一瞬なんですよ、ということをいいたかったのです。そしてそれらは、100世帯、1000世帯集まると均されてくるものなので、各世帯の瞬間のひげだけを問題視する必要はない、ということです。

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図 消費量の大きい世帯のある夏の日の消費パターン
データ:岩船研究室

それから、付け加えておきますが、いったん契約電流を下げる工事を行うと、一年は再工事ができないそうです。なので、簡単にお薦めできないんですよね。